バスク地方では先週からサマータイムが始まり、日が一段と長くなりました。暖かな日差しに包まれた緑の丘、そこに吹き抜けるやわらかな風——こんな陽気のもとで飲みたくなるのが、爽快な白ワイン「チャコリ」です。
この週末、チャコリ特産地出身の友人のすすめで、名高いワイナリー「イナシオ・ウルソラ (Inazio Urruzola)」を訪ねてきました。ここで造られるチャコリは、バスクのみならず国際的にも高い評価を受けており、地元の三ツ星レストラン「アルサック」でも採用されています。
この記事では、ワイナリー見学、新酒のテイスティング、併設レストランでのランチ、そして地元流の楽しみ方までをご紹介。自宅でも体験してみたい方のために、商品情報もまとめています。少しでもバスクの風を感じていただけたらうれしいです。
それでは行ってみましょう!
ワイナリー紹介
坂道を登っていくと、リンゴの花が咲き誇り、羊が点在する牧歌的な風景が広がります。その中に調和するように建つモダンな建物が「イナシオ・ウルソラ」のワイナリーです。
場所は、サン・セバスティアンのあるギプスコア県アルキサ村。3つあるチャコリの特産地のうち、ゲタリアコ・チャコリ (Getariako Txakolina)に属するチャコリを作っています。
家族経営の小さなワイナリーで、もともとは「ガライコエチェア」という屋号の14世紀から続く農家。バスクでは名字よりも屋号で呼ぶのが一般的で、この屋号は今も大切にされています。
このワイナリーでは、伝統的な手法と現代的なアプローチを組み合わせ、地元でも国際的にも評価されている素晴らしいチャコリを生み出しています。
世界中で愛されるワインですが、その原点は自社で大切に育てられたブドウにあります。

ブドウ畑と自然条件
イナシオ・ウルソラは、ブドウ農家から買い付けるのではなく、自社の畑でブドウを育てています。ブドウ畑はサン・セバスティアンのあるビスケー湾からわずか8kmですが、大西洋を見下ろす海抜350mという高地に位置し、途中にある山が海からの風を遮るため湿気が少なく病害が少ない理想的な条件。ブドウの成育にかかせない日当たりの良さと、水はけの良さをかねそなえた斜面にブドウ畑を所有しています。
収穫はすべて手摘み。自然環境に配慮した農法で丁寧に育てられたブドウが、チャコリの個性を形づくります。
醸造のこだわり
ブドウは品種ごとに仕込まれます。上級ワイン「エルニオ」は、特に優れた畑のブドウのみを使用。さらに選果された後、ステンレスタンクで低温発酵されます。
ステンレスタンクと低温発酵について知りたい方はこちら
ステンレスタンクは、しぼったブドウ果汁を入れる容器で、木樽よりも清潔で温度管理がしやすいのが特徴です。
酵母は温度に敏感なため、発酵中の温度調整がとても大切になります。
特に白ワインでは、香りや繊細な風味を守るために、タンク内を低温に保って発酵させることが多いです。
発酵後は一定期間、澱と一緒に寝かせる「シュール・リー製法」により、一般的なチャコリより豊かで深みのある味わいになります。
ワイナリー体験
エントランスはそのままレストランへとつながり、全面ガラス張りの窓からは美しい景色を楽しめます。案内の後、グラスを持って地下の醸造所へ。ここで3種の新酒を試飲(白2種・ロゼ)しました。
タンクから直接グラスに注がれるスタイルは、バスクのシードル文化「Txotx!」さながら。飛び出すワインをグラスでキャッチする、ユニークで楽しい体験でした。

おつまみには、定番ピンチョス「ヒルダ」(アンチョビ・オリーブ・青唐辛子のピクルス)と、バスク名物ソーセージ「チストラ」が用意されていました。

テイスティングの印象
新酒はどれもフレッシュで、目の覚めるような酸味と爽快な口当たり。のちほどレストランで提供される完成されたチャコリと比べてみると、その違いも興味深いポイントです。
ピンチョスもこだわりが感じられる一品。ヒルダはシンプルだからこそ、素材の良し悪しで味わいが大きく変わりますが、たっぷりと使われた上質なオリーブオイル、ピリッとした唐辛子、オリーブの酸味とアンチョビの旨味。そのどれもがチャコリと組み合わせると何倍も美味しくなります。あまりの美味しさに写真を取るのを忘れてしまいました。脂の多いチストラも、チャコリの酸で口の中がリフレッシュされ、手がとまらなくなる美味しさ。


レストランでのランチ体験
試飲のあとは、再びレストランでランチタイム。60ユーロのコースには、パン、スタンダードチャコリ白またはロゼ1本が含まれています(コーヒーとデザートは別料金)。食事中、上級白エルニオとスパークリングワイ、それぞれ一杯づつのサービスもありました。
メニューは伝統的なもの:タラのオムレツ、マグロステーキ(玉ねぎ&バルサミコソース)、Tボーンステーキ、チャコリを使ったシャーベット。デザートはチーズケーキを注文。どれもシンプルながら素材の良さが際立つ料理ばかり。
ボリュームもたっぷりで、まさにバスクらしい大満足の食事体験でした。





チャコリの万能さ
今回の食事を通して、チャコリの持つ万能さを再確認しました。ワインを合わせるのが難しいと言われる卵料理やスパイス、そして魚介・肉料理も、すべてチャコリと一緒に楽しむことができました。
酸味のあるフレッシュなタイプのワインは、よくレモンに例えられますが、料理にレモンを絞る感覚で、ご自宅でもさまざまな食事にチャコリを取り入れてみてはいかがでしょうか。
チャコリのペアリングのアイデアを知りたい方はこちらをご覧ください。
バスク流・ワインの楽しみ方
こちらのレストランは家族連れ、カップル、会社の集まり、結婚式など幅広く利用されています。私が訪問した際も、知人の会社の送別会が開かれていました。
バスクの人々は、集まって食事を楽しむのが大好き。美味しい料理とワインがあれば、それだけで十分です。難しいことは考えず、美味しいものを素直に楽しむ——そんな「バスク流の食とワインの楽しみ方」を、ぜひ取り入れてみてください。
ワイン紹介とおすすめの楽しみ方
チャコリ 白(Txakoli blanco)
- キレのいい酸味でフレッシュな味わい、10%前後の低アルコールで飲みやすい
- シーン:普段の家飲みに最適
- 合う料理:白魚の塩焼き、ボイルした魚介類、天ぷら、鍋料理
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品種:オンダラビ・スリ80%、シャルドネ15%、プティ・コルビュ5%
熟成期間:3~4週間のシュール・リー熟成 (澱とともに寝かせること)、4週間の瓶熟成
テイスティングノート:明るく澄んだ、緑がかった淡い麦わら色。レモンやライム、白い花。熟したトロピカルフルーツのアロマも感じられる。非常にバランスの取れた味わい。低いアルコールによる繊細な酸味が感じられる。
チャコリ ロゼ(Rosado)
- 香り高く柔らかな口当たりの軽やかロゼ
- シーン:女子会や花見・バーベキューなどのアウトドアに
- 合う料理:酢豚、春巻き、焼き鳥
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品種:オンダラビ・スリ50% 、オンダラビ・ベルツァ50%
熟成期間:6週間のシュール・リー熟成、2週間の瓶熟成
テイスティングノート:ごく淡いピンク色。イチゴや白い花の香りの中にハーバルなニュアンスも感じられる。白と比べてより果実味があり、フレッシュなベリー系のアロマ、クリスピーな泡とミネラルが引き締めるキリリとした酸味が、合わせる料理の幅を広げてくれる。エスニックや中華料理との相性も抜群です。
チャコリ 上級白 エルニオ(Especial Ernio)
- より深みのある洗練された味わい
- シーン:特別な日や贈り物に
- 合う料理:イシビラメの炭火焼 (バスクの名物)
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品種:オンダラビ・スリ80%、シャルドネ10%、プティ・コルビュ10%
自社畑最高ランクのオンダラビ・スリとシャルドネを使用。
熟成期間:12か月のシュール・リー熟成、4週間の瓶熟成
テイスティングノート:地元でも特別なチャコリとして知られ、高級レストランで提供されることも。チャコリらしい爽やかさを保ちつつ、一年間澱とともに寝かされた厚みのあるボディが感じられます。より複雑で洗練された味わい。チャコリというワインの秘めるポテンシャルを知るのに最適。特別な日のための一本にどうぞ。
チャコリ スパークリング フアニータ(Espumoso Juanita)
- シャンパンに匹敵する評価を受けるスパークリングワイン
- シーン:お祝いや贈り物に
- 合う料理:シーフードの盛り合わせ、イディアサバルチーズ (この地方の羊乳のハードチーズ)
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品種:オンダラビ・スリ100%
発酵方法:瓶内二次発酵 (フランスのシャンパンと同様の発酵方法)、ドサージュ (砂糖やリキュールなどの甘味成分の追加) なし
テイスティングノート:自社畑の最上級区画のオンダラビ・スリだけで作られたスパークリング。この白ブドウの個性が存分に感じられる。エレガントできめ細かい泡の中に、しっかりとした酸が感じられる。トロピカルフルーツや白い花の華やかな香り。ミネラルと塩気が感じられ、長く続く余韻。泡好きの方にぜひおすすめしたい一本です。
訪問を検討される方へ
おすすめポイント
- 多様なチャコリの試飲
- こだわりの高品質チャコリ
- 地元食材を生かした絶品料理
- アットホームで居心地の良い雰囲気
- 絶景が広がる美しいロケーション
注意点
- 車でのアクセスが必要
周辺観光スポット
おわりに
今回の訪問で、チャコリというワインの魅力を五感で堪能しました。日常を少し特別にしてくれるこのワイン、ぜひみなさんも楽しんでみてください。きっと、バスクの風がグラスの向こうに感じられるはずです。