朝食とアマイケタコ ─ ゆっくり始まる、豊かな朝の時間
星付きレストランやバル巡りなど、「美食の地」として知られるバスク。でも、そんなバスクの人たちが毎日食べている“ふつうのごはん”って、どんなものなのでしょうか?
この「バスクの普段の食卓シリーズ」では、バスクの家庭で日常的に食べられている食事や、暮らしのなかで大切にされている食文化を紹介していきます。
今回のテーマは、朝食と、バスク語で「11時の食事」を意味するアマイケタコ(hamaiketako)。
ゆっくりと始まるバスクの朝のリズムと、そこに根づく“食の時間”をご紹介します。

夜型が基本?バスクの朝の風景
バスクに暮らして十数年。帰省するたびに、日本との暮らしの違いに驚かされます。
たとえば「朝の時間」。スペイン北部に位置するバスクは、日の出も日の入りも日本よりずっと遅く、夏場には夜10時でもまだ明るいことも。自然と、生活全体が夜型になります。
村では、子どもたちが深夜まで外で遊び、大人たちは広場でおしゃべり。週末の朝は家族そろってゆっくりと目を覚まし、のんびりと朝時間を過ごす家庭が多いです。
一方で日本に帰ると、近所の人たちが朝6時台から活動しているのにびっくり。8時頃に起きると、「恥ずかしいから、まず雨戸を開けよう」と立ち上がります。
朝は軽く、昼にしっかり:バスクの食事リズム
バスクの食事リズムは、**「朝と夜は軽め、昼はしっかり」**が基本。
朝食は小腹を満たす程度。午後2〜3時と遅めの昼食までの間に、「アマイケタコ」と呼ばれる軽食タイムがあるのも特徴です。
家庭での朝ごはんは? カフェでは?
家庭での朝ごはんはとてもシンプル。コーヒーやカフェオレに、クッキー、シリアル、トーストなどを添えるだけ。子どもは牛乳やココアを飲むことが多いです。
カフェでは、パン・コン・トマテ(オリーブオイルとトマトペーストをのせたパン)や、クロワッサン、チョコデニッシュ、ビスコッチョ(バスク風パウンドケーキ)などが人気。クロワッサンなどをカフェオレに浸して食べるのも、ときおり見かける風景です。

寒い朝には、ホットチョコレートとチュロスというちょっと贅沢な朝ごはんを楽しむ人も。
ちなみに、バスクではアイスコーヒーはあまり一般的ではありません。暑い日には、ホットコーヒーと氷入りグラスを別々に頼み、自分で注ぐスタイル。でも、こぼれやすく微妙な温度になるので、わたしは夏でもホット派です。
生オレンジジュースをその場で搾ってくれるカフェも多く、これがまた濃厚で美味しい!朝から贅沢な気分にしてくれます。
街カフェで味わう、ちょっと特別な朝
今週は街に出て、少しだけ贅沢な朝食を。

注文したのは、アボカドとトマトのトースト、自家製のビスコッチョ、そしてカフェラテとカフェモカ。手作りパンに熟したアボカドとフレッシュなトマトがよく合い、ビスコッチョはパッションフルーツが香るしっとりとした口あたり。
どれも素朴だけど丁寧に作られていて、心がほどけるような朝時間でした。

朝と昼の間のアマイケタコ
軽い朝食のあと、昼食までの“つなぎ”となるのがアマイケタコ(hamaiketako)。
バスク語で「11時の食事」を意味しますが、由来はもともと農村部での肉体労働の合間の休憩食にあります。産業革命以降、都市部でも11時頃に定着し、今では生活の一部に。
平日のアマイケタコは?
職場や学校で、10~11時ころに、持参したサンドイッチや果物をつまんだり、近くのバルで**トルティーヤ(スペインオムレツ)**やピンチョスを軽く食べたり。まさに「腹ごしらえ」の時間です。

週末や祝日のアマイケタコは?
ところが、週末になるとこの“軽食”が一変。バルやレストランで家族や友人と集まり、しっかりとした料理を囲む社交の時間に変わります。
代表的なメニューが
「Huevos rotos con chistorra y patatas」(目玉焼き+チストラソーセージ+ポテトの一皿)。
フライドポテトの上に半熟の目玉焼きとジューシーなソーセージをのせ、ざっくりと混ぜながら食べる一皿は、見た目も味も迫力満点。

ジューシーな豚肉で食べごたえも満点です。
ほかにも**Caldo de cocido(ソーセージや肉から出汁をとったスープで、具材の肉のトマト煮込みが添えられることもあります)**など、シンプルでボリュームのある料理が定番です。
これらの料理を、バスクのリンゴ酒シードラやそれぞれの土地の地ワインとともに楽しみます。
ゆったり始まる一日を、食から感じる
甘い焼き菓子とカフェオレでふんわりと目を覚まし、少し遅めに「もう一回ごはん」。
一日を急がず、じっくり味わって始めるバスクの朝時間には、その時々を大切にし、楽しむ気持ちが感じられます。
日本でも、たまの休日に“ちょっと寝坊してカフェオレと甘いパンで始める朝”。そんなバスク風の朝食スタイルを、ぜひ体験してみてください。
