はじめに
スペインワインに興味はあるけれど、「ナバラ」ってどんな地域?リオハやリベラ・デル・ドゥエロに比べて情報が少なく、特徴や魅力がわかりにくいと感じていませんか?
この記事では、そんなナバラ州の多彩なワインにスポットをあて、ロゼからスパークリングワインのカバまでを生み出す懐の深さや、それを育む風土・文化を丁寧に紹介します。
バスク在住10年以上&ワインアドバイザーの筆者は、実は生粋のナバラワインラバー。
リオハにも劣らない品質、そして手頃で多様なナバラワインは、赤も白も多彩なスタイルがあり、カジュアルに楽しめるものから本格派まで、思わず“掘り出し物”を見つけた気分になれる産地です。
広大なナバラワインの世界を、一緒にDiscoverしていきましょう!
ナバラ州とは?バスクとのつながりとその魅力
ナバラ州はスペイン北東部に位置し、バスク自治州(Euskadi)やラ・リオハ州と隣接し、北はピレネー山脈を挟んでフランスと国境を接しています。

歴史的にナバラは、9世紀にバスク系の王国として誕生し、パンプローナを首都とするナバラ王国として栄えました。中世にはカスティーリャやアラゴン、フランスなど周辺大国の影響を受けつつも、独自の自治と文化を守り続けてきました。

今でも多くのバスク人が暮らし、特に北西部ではバスク語が日常的に話されています。食文化や祭り、伝統芸能などにもバスク文化の影響が色濃く残っており、スペイン人もしくはナバラ人としての意識とバスク人としてのアイデンティティが共存しています。
ナバラは現在、スペインの中でも特別な地位を持つ自治州であり、バスク自治州と並んで高度な自治権を有しています。
まずはここだけ読めばOK!ナバラワインの基本情報

鮮やかな色合いのロゼは、スペイン全土で親しまれているナバラワインの象徴です。
ナバラワインって何が魅力? 簡単に言えば、こんな特徴があります:
- ロゼが代表格:ガルナッチャ(グルナッシュ)を使った辛口ロゼは、ナバラの代名詞。果実味と酸のバランスが絶妙。
- 赤ワインも実力派:テンプラニーリョや国際品種(カベルネ、メルローなど)とのブレンドで、飲みごたえある味わいに。
- 白もじわじわ注目株:シャルドネや地元品種のビウラで、すっきりフレッシュな白ワインも人気上昇中。
- コスパ◎:同じ価格帯の中でも、品質の高さが際立つワインが多い。
- 多様性があるから選ぶ楽しさも:軽やかなデイリーワインから、樽熟成の重厚な1本までラインアップが豊富。
「気軽に楽しめるけど、奥深い」――ナバラのワインは、そんな魅力を持った存在です。
ガルナッチャロゼの魅力とは?どう選ぶ?ナバラワインの楽しみ方
ナバラのワインは、場面や好みに合わせて選びやすいのが魅力です。スタイル別に、ざっくり味わいの傾向と楽しみ方をご紹介します。
● ロゼ:ナバラワインの顔
ナバラワインといえばロゼ。淡いピンクから濃いチェリーピンクまで色調も豊か。果実感がありつつドライで、冷やして飲めば食前酒にもピッタリ。タパスやサラダ、エビのアヒージョなど軽めの料理と好相性。

● 赤ワイン:バランスの良さが光る
おとなりリオハに負けるとも劣らない赤ワイン。ガルナッチャ主体の赤は、明るくジューシー。テンプラニーリョや国際品種とのブレンドは、しっかりした飲みごたえとスパイス感も楽しめます。牛肉、ラム、チーズと◎。

● 白ワイン:爽やか&繊細
シャルドネやビウラを使った白は、フレッシュな柑橘系や青リンゴの風味。魚介や鶏肉、和食とも合わせやすく、夏にもおすすめ。

メディオディア ロサド(ボデガ・イヌリエタ)
暑い季節にぴったり。現地ナバラのテラスでも愛される、爽やかでバランスの良い辛口ロゼ。
紫がかったラズベリーカラーが美しく、グラスに注ぐだけで気分が上がります。
赤い果実やキャンディを思わせる華やかな香りに加え、しっかりとしたボディと心地よい酸味が特長。
フレッシュさと旨みの余韻が長く続き、どんな料理にも寄り添う万能ロゼとして活躍します。
ガルシアーノ(ボデガス・アスル・イ・ガランサ)
ナバラの砂漠地帯で育まれた有機栽培ワイン。過酷な環境を活かした自然派アプローチで注目を集める造り手です。
なかでもおすすめはこの「ガルシアーノ」。ナバラの地ブドウを使用し、エレガントな酸味と果実味が心地よい、親しみやすい赤ワインです。
軽やかで飲みやすく、カジュアルな食事にもぴったり。
ナチュラル志向の方や、地元品種に惹かれる方にぜひ試してほしい1本。
オルキデア(ボデガ・イヌリエタ)
ナバラでは希少なソーヴィニヨン・ブランから造られる、爽やかさ際立つ白ワイン。
柑橘やトロピカルフルーツ、ハーブの華やかなアロマに、キリッとした酸とほどよいボディ感が心地よく調和します。
香り高い白ワインがお好きな方にぴったりの1本。
暑い季節のテラスにはかかせない1本です。
おまけ:赤白ロゼの飲み比べセット
さまざまなタイプを飲み比べたい方には、こちらのセットもおすすめです。
「アロア」は、現地でも評価の高い注目の生産者。
ナバラの地ブドウから国際品種まで、多彩な味わいをじっくり堪能できます。
選び方のポイント、ラベルの見方などは、記事の最後に案内しています。
また、ワインにかかせないのがチーズ。地元産のチーズ、ロンカルチーズやイディアサバルチーズとの組合わせも一押しです。
個性あふれるナバラのワイナリーたち
ナバラには大小さまざまなワイナリーがあり、それぞれの土地の気候や土壌、造り手の哲学を反映したワインを造っています。ここでは、ナバラの多様性を体感できる注目のワイナリーをいくつかご紹介します。

有機栽培に取り組むボデガス・アスル・イ・ガランサの畑。丁寧な手作業でブドウが育まれています。
● ボデガス・オチョア(Bodegas Ochoa)
ナバラのロゼといえば、まず名前が挙がるのがこの家族経営ワイナリー。6代にわたる歴史を持ち、特にガルナッチャを使った「オチョア・ロサード」は国内外で高い評価を得ています。フルーティーながらもキレがあり、食事にも合わせやすい1本。
● ボデガ・イヌリエタ(Bodega Inurrieta)
比較的新しいながら品質に定評のあるワイナリー。ナバラの大抵のバルで見かけます。標高の高い畑で育ったブドウを使い、クリアでモダンな味わいが特徴。赤も白も、どの年でも安定感があり、価格も手頃なので、ナバラワインの入門にもぴったり。
● ボデガス・アスル・イ・ガランサ(Bodegas Azul y Garanza)
オーガニック&自然派ワインのファンにおすすめの1軒。バルデナス砂漠地帯の端にある畑で、極限の自然条件を活かして育てたブドウから、ミニマルな介入で個性的なワインを造ります。ラベルのアート性も高く、ギフトにも◎。
巡礼路 × ワインの組み合わせが魅力!
ナバラ州を語るうえで外せないのが、「サンティアゴ巡礼路」と「ワイン」の組み合わせです。スペイン北部を横断する巡礼路の一部がナバラ州を通っており、その沿道には歴史ある村々と、美しいブドウ畑が広がります。
巡礼者たちは、長い道のりの途中で地元のワイナリーに立ち寄り、休息とともにその土地ならではのワインを味わってきました。いまでも巡礼路沿いには、ワイン好きにうれしいスポットが点在しています。
たとえば、ティエラ・エステーリャのエリアでは、石造りの教会と小さなワイナリーが並び、ローカル感たっぷりの風景を楽しめます。特にロス・アルコスやエステーリャなどの町では、巡礼文化とワイン文化が自然に溶け合っていて、観光客にとっても魅力的なエリアです。

ロス・アルコスとエステーリャの間にあるイラチェ村には、ワイナリーが設置した「ワインの泉」が。左の蛇口をひねると、本当にワインが出てきます!
旅とワインを同時に楽しめるナバラ州。ワイナリー巡りをするだけでなく、少し足を延ばして巡礼路を歩いてみると、ワインの背景にある風土や人々の営みがより深く感じられます。
もっと知りたい人向け:ナバラワインの背景知識
◆ナバラワインの歴史:伝統と革新の融合
ナバラ地方のワイン作りは、なんと紀元前2世紀まで遡ります。古代ローマ人がワイナリーを建設したことが始まりで、そこから長い歴史を経て、ナバラワインは世界に広がっていきました。

古代ローマ時代にワインの熟成や保存に使われていたアンフォラ(素焼きの壺)。ナバラでもこの伝統が見られます。
中世:巡礼者に愛されたワイン
ナバラは独立した王国であり、サンティアゴ巡礼路を行き交う人々の需要により、ブドウ栽培が発展。中世には修道院がワイン文化を支え、サンティアゴ巡礼路沿いでは旅人にワインを振る舞う習慣もありました。
12世紀にはすでにナバラワインの国外輸出が始まり、巡礼者向けのガイドブックには「ナバラのワインは美味」と記されていました。ネーデルラントへの輸出が増え、18世紀にはロシアのピョートル大帝も愛好していたとか。
19世紀:フィロキセラとの戦い
フィロキセラという害虫により、フランスのブドウ畑が壊滅。ナバラは代替産地としてバルクワインの輸出が急増しましたが、やがてナバラにも被害が及び、畑は壊滅状態に。
その後、新たな品種を導入して産業が復活。ガルナッチャを中心に、量を重視したワインづくりが広がりました。
フィロキセラ(Phylloxera)は、19世紀にヨーロッパ全土のブドウ畑を壊滅させたブドウの根に寄生するアブラムシの一種です。北米原産で、ヨーロッパのブドウ(ヴィティス・ヴィニフェラ)は耐性がなく、被害が拡大しました。
対策として、フィロキセラに強いアメリカ系ブドウの台木に接ぎ木する方法が確立されました。
20世紀:ナバーラD.O.認定と品質向上
1933年にD.O.(原産地呼称)に認定され、ナバラのワイン造りは本格的に品質重視へと転換。1970年代からはメルローやカベルネなどのフランス品種が導入され、1981年の州立研究所設立でシャルドネも世界的に評価されました。
軽やかなガルナッチャのロゼはこの時期に定着し、ナバラの代表的スタイルに。1980年代以降は国際品種と技術革新により、赤・白ワインの品質も大きく進化し、多彩な産地として注目されるようになりました。
現在:伝統と革新の共存
今ではナバーラには9,000ヘクタール以上のブドウ畑が広がり、5つの生産地域に分散しています。伝統を守りながらも、新しい技術や品種を取り入れ、多様で魅力的なワインを生み出し続けています。

ナバラの広大なブドウ畑。古くからの栽培技術と現代的なワイン造りが調和しています。
◆ 主要ブドウ品種まとめ
ナバラでは、栽培されるブドウの約7割がガルナッチャやテンプラニーリョなどの伝統品種、残り3割が国際品種です。全体の9割を黒ブドウが占め、白ブドウは約1割にとどまります。
黒ブドウ品種

ナバラで栽培される主要な黒ブドウ品種。多様なスタイルのワインを支えています。
- ガルナッチャ(グルナッシュ):ロゼにも赤にも使われる、果実味豊かなナバラの主役。
- テンプラニーリョ:赤ワインの芯を担う、香り高くエレガントな品種。
- カベルネ・ソーヴィニヨン/メルロー/シラー:国際品種。主に赤ワインのブレンドで使用され、奥行きのある味わいに。
白ブドウ品種

ナバラの主な白ブドウ品種。白ワインの存在感も年々高まっています。
- シャルドネ:冷涼な北部を中心に、高品質な白ワインが生まれる。
- モスカテル(小粒)やマルバシア:個性派の白ワインやデザートワインにも使われる香り高い品種。
◆ 生産エリア
ナバラ州は、南北わずか100kmという短い距離に、驚くほど多様な自然環境とワイン産地が広がっています。ワインの原産地呼称(D.O.ナバラ)に認定された5つのサブゾーンが存在し、それぞれが独自の気候・土壌・地形によって個性的なワインを生み出しています。

ナバラに広がる5つのサブゾーン。それぞれ異なる気候と地形が、ナバラワインの多彩な個性を育んでいます。
5つのD.O.ナバーラ生産ゾーン
バハ・モンターニャ(Baja Montaña)
ナバラ州東部の丘陵地帯。肥沃な谷や森林に囲まれたエリアで、起伏のある地形と独自の土壌が特徴です。フレッシュで風味豊かなガルナッチャ(グルナッシュ)がこの地域の主役です。
ティエラ・エステーリャ(Tierra Estella)
西部に位置する自然豊かな地域。山と谷が交錯する変化に富んだ地形で、テンプラニーリョやシャルドネが育ちます。巡礼路「カミーノ・デ・サンティアゴ」が通っており、文化的背景も魅力です。
リベラ・アルタ(Ribera Alta)
州の中心部、オリテを中心とした広大なエリア。温暖な気候と多様な土壌を持ち、伝統と革新が融合したワイン造りが盛んです。テンプラニーリョを中心に、ナバラ州のブドウ栽培面積の大部分を占めています。
リベラ・バハ(Ribera Baja)
南部に広がる平坦で乾燥した大地。灌漑が必要なほど降水量が少ないエリアですが、肥沃な土壌と日照に恵まれ、凝縮感のある赤ワインやロゼが造られています。D.O.ナバラの中でも特に重要な地域です。
バルディサルベ(Valdizarbe)
アルガ川流域に広がる最も小さな生産地域。サンティアゴ巡礼路に沿って点在するブドウ畑では、繊細で個性のあるワインが生まれています。
◆地域ごとの気候:砂漠から山岳まで
ナバラ州の気候は、エリアによって大西洋性、地中海性、大陸性と三者三様。たとえば:
- 北部:大西洋気候。ピレネー山脈に近く、冷しく雨が多い。酸がしっかりとした上品なワインが期待できます。

- 中央部〜南部:大陸性気候が中心で、夏は暑く冬は寒い。ブドウがよく熟し、力強い赤やロゼが造られます。
- リベラ・バハやバルデナス・レアレス付近:地中海気候。ほぼ砂漠地帯に近いほど乾燥しており、希少なテロワールが個性的なワインを生みます。

平均降水量は625mmと少なめ。こうした多様な気候条件が、ナバラワインの複雑さと奥行きを支えています。
この地形と気候のバリエーションこそが、ナバラのワインに多様性をもたらす最大の魅力です。飲み比べれば、産地ごとの表情の違いをきっと感じられるはずです。
どこで買える?日本でナバラワインを楽しむ方法
◆ ナバラワインはどこで手に入る?
ナバラワインは、日本でも比較的手に入りやすくなってきています。以下のような場所で探してみましょう:
- ワイン専門の輸入ショップ・酒販店
スペインワインに強いショップでは、ガルナッチャのロゼやテンプラニーリョ主体の赤などが揃っています。 - 百貨店や大型スーパーのワインコーナー
輸入ワインに力を入れているお店では、ナバラ産のロゼを見かけることも。春〜夏は特にロゼの品揃えが増えます。 - オンラインショップ
「ナバラワイン」「Navarra ワイン」などで検索すると、複数のECサイトで取り扱いがあります。レビューを参考にするのもおすすめ。
◆ ラベルの見方と選び方のコツ
スペインワインのラベルは、最初はやや難しく感じるかもしれませんが、ポイントを押さえれば大丈夫です。
- 原産地呼称(D.O.)に「Navarra」
ラベルに「D.O. Navarra」または「Denominación de Origen Navarra」と書かれていれば、ナバラ産ワインです。 - 品種名
Garnacha(ガルナッチャ)、Tempranillo(テンプラニーリョ)、Chardonnay(シャルドネ)など、好みの品種をチェック。 - タイプ
Rosado(ロサード)はロゼ、Tinto(ティント)は赤、Blanco(ブランコ)は白。どのスタイルかはこの表記で分かります。 - 熟成表示
Crianza(クリアンサ)やReserva(レセルバ)と書かれていれば、樽熟成を経た赤ワイン。ふくよかな味わいが特徴です。 - 価格帯の目安
ナバラワインはコスパが高く、1,000〜2,000円台でも十分に楽しめる品質のものが多く出回っています。
ワイン選びに慣れてきたら、タイプ別や生産者での飲み比べも楽しいですよ。気になる方はナバラワインのおすすめワイナリーもチェックしてみてください。
まとめ
ナバラワインは、知るほどに面白く、飲むほどに好きになるワインです。まだあまり知られていない今こそ、手に取りやすく、深く楽しめる絶好のタイミング。気になる1本があれば、ぜひ試してみてください。
他にもスペイン北部エリアのワイン記事を公開中なので、気になる方はそちらもチェックしてみてくださいね。みなさんのワインライフをより豊かにする、お気に入りの1本がみつかれば幸いです。
