- バスク料理ってなんで有名なの?
- フランスやスペインの料理とは違うの?
- レストランでバスク料理を楽しみたい
バスク地方は世界トップクラスの星付きレストランやピンチョスなど、美食文化で知られています。バスク地方はスペインとフランスの二大国に挟まれながらも、独自の言語や文化を保ってきました。何も知らずにバスク地方を訪れると、フランスやスペインとは異なる食文化に戸惑ってしまいます。
この記事では、バスク地方在住で元ワイン専門職の筆者が、バスク料理の特徴と代表的な郷土料理、地元のお酒を解説します。記事を読めば、バスク料理のレストランで自信を持って注文できるようになります。
バスクの美食を最大限に楽しむために、バスク料理の特徴と定番メニューを知っておきましょう。
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バスク地方が「美食の地」と呼ばれる3つの理由

バスク地方が「世界一の美食の地」と呼ばれる3つの理由があります。
- 山と海に囲まれ新鮮な食材が豊富
- 社交場として食文化が発展
- 伝統と革新の両方を大切にする気風
バスク地方はピレネー山脈やビスケー湾など、山と海に囲まれています。穏やかな丘陵地帯には羊や牛が放牧され、牧歌的な風景が広がります。雨が多く温かな気候で、野菜や果物もよく育ちます。
食べるのが大好きなバスクの人々ですが、料理自体より、食事を他の人と楽しむことを大切にしています。バスク地方には、バスク語で「エルカルテ(elkarte)=人の集まり」と呼ばれる美食倶楽部があります。美食倶楽部にはキッチンとテーブルがあり、家族や友人と一緒に料理をしながら食事を楽しみます。
一口料理のピンチョスを楽しみながら、みんなでバルを巡る「ハシゴ酒」も有名です。美食倶楽部もバル巡りも、社交場としてのバスク地方の食文化を象徴しています。

1970年代には、バスク地方の食文化に新たな流れが生まれました。地元の若いシェフたちがフランスのヌーベルキュイジーヌに刺激を受け、洗練された調理法を取り入れたのです。「新バスク料理(Nueva Cocina Vasca)」と呼ばれる伝統と革新が融合したスタイルは、現在も世界の注目を集めています。
バスク地方が美食の地と言われるのは、自然の恵みと伝統を大切する姿勢、時代に応じ進化し続ける創造性、社交場としての食文化が三位一体となり息づいているからなのです。
【バスク地方】料理の特徴 | 食材や味付け

自然豊かなバスク地方で育まれたバスク料理は、和食との共通点が多いです。
- 素材を生かす味付け
- 地産地消の精神
- 旬のものを楽しむ文化
バスク地方は山と海の幸が豊富にとれます。新鮮な素材を生かすため、塩とオリーブオイルを使ったシンプルな味付けが基本です。フランスのバスク地方ではエスペレット唐辛子を使うこともあります。
地元で高品質な食材が手に入るので、積極的に地元産の食材を使います。海ではタラ(バカラオ)やイカ、アンチョビなどの魚介類が取れます。内陸部では、牛肉や羊のチーズ、野菜や豆類が有名です。季節ごとの旬を大切にするのも特徴です。春にはホワイトアスパラガスやアーティチョーク、秋にはキノコやジビエが食卓を彩ります。

バスク料理が和食と異なるのは、ソース類がよく使われる点です。
- タラのゼラチンを乳化させたピルピルソース
- ピルピルソースにパセリを加えたサルサ・ベルデ(グリーンソース)
- 干し赤パプリカを効かせたビスカヤ風ソース
独自のソース文化はバスク料理に深みを与えています。食材や調理法は、漁業やチーズ作りなどそれぞれの土地の歴史と深く結びついています。素材を大切にし、一皿ごとに土地の風土と歴史が感じられるのがバスク料理の特徴です。
スペイン・バスク地方の代表的な郷土料理
スペインのバスク地方には素材の良さを生かした郷土料理が多いです。前菜・メイン・デザートに分けて代表的なバスク料理を紹介します。
バスク地方では、スペイン風のパエリアは一般的ではありません。パエリアの本場はスペイン東部のバレンシア地方です。バスクの観光客向けのレストランでパエリアが提供されることもありますが、せっかくならバスクならではの郷土料理を味わうのがおすすめです。
スペイン・バスク地方の代表的な前菜(Entrantes)
■エンサラーダ・ミクスタ(Ensalada mixta)

レタスやトマト、ツナ、ゆで卵を彩りよく盛りつけたシンプルなミックスサラダ。オリーブオイルとビネガー、塩で和えます。
■ピミエントス・レイェノス(Pimientos rellenos)

ナバラ州の名物です。赤ピーマンの中に肉や魚、ゆで卵などを加えたベシャメルソースを詰め、軽くソテーした料理。赤ピーマンとベシャメルソースの甘味や柔らかな食感がよく合います。
■ココチャス(Kokotxas)

タラやメルルーサの下あご肉を使った料理です。メルルーサの方が上質とされており、ピルピルソースやサルサ・ベルデ(ピルピルソースにパセリを加えたグリーンソース)で仕上げるのが一般的。独特のとろける食感が特徴です。
■ソパ・デ・ペスカド(Sopa de pescado)

魚介の旨味が凝縮されたスープです。味わい深く、寒い冬には体の芯から温まる味わいです。
■チャングロ(Changurro)

蟹の身をタマネギ、ピーマン、トマトと炒め、ワインやブランデーで香り付けしたオーブンで焼いたサンセバスチャンの名物料理です。濃厚な味わいです。
■マルミタコ(Marmitako)

ビスカヤ州の名物です。カツオをジャガイモやトマトと煮込んだ漁師料理です。材料の魚が旬の夏によく食べられます。
■アルビアス(Alubias)

野菜やソーセージなどの肉類とインゲン豆の煮込みです。バスクの「おふくろの味」として親しまれています。
スペイン・バスク地方の代表的なメイン(Platos principales)
■チュレタ(Chuleta)

骨付き牛肉のステーキで、豪快な炭火焼きが定番です。表面は香ばしく中はジューシーで、塩のみのシンプルな味つけが肉本来の旨味を引き立てます。バスクのリンゴ酒シードラの醸造所「シードレリア(サガルドテギ)」の名物料理として有名です。
■ペスカド・アル・オルノ(Pescado al horno)

新鮮な魚をオーブンで焼き上げます。メルルーサ、鱈、アンコウなどがメジャーです。オリーブオイルとニンニクのソースを回しかけます。
■バカラオ・アル・ピルピル(Bacalao al Pil-Pil)

タラをオリーブオイルとニンニクを乳化させた「ピルピルソース」で仕上げる伝統料理です。タラの旨味とソースのとろみが絶妙です。
スペイン・バスク地方の代表的なデザート(Postres)
■タルタ・デ・ケソ(Tarta de queso)

生クリームやベリーソースを添えたレアチーズケーキやベイクドチーズケーキが人気です。なかでも、サンセバスチャンの人気バル「La Viña」で誕生したバスクチーズケーキは、今では世界中で愛されています。ただし、バスクチーズケーキは現地のレストランで見かけることは少なく、味わうならバルやカフェがおすすめです。
■クアハーダ(Cuajada)

羊乳を固めたミルクプリン風デザートです。チーズ作りの副産物として生まれました。クアハーダは砂糖や蜂蜜をかけて食べられることが多いです。
■ゴシュア(Goxua)
バスク語で「甘い」を意味するデザートで、カスタードと生クリーム、スポンジを重ねた優しい味わいのスイーツです。
スペイン・バスク地方の代表的なチーズ
■ イディアサバル(Idiazabal)

バスク地方の山岳地帯で作られる、羊乳のチーズです。濃厚でコクのある風味が特徴で、薄くスライスしてそのまま食べても、ピンチョスに添えても美味です。ワインやリンゴ酒シードラ(Sidra)ともよく合います。
■ ロンカル(Roncal)
ナバラ州のピレネー山脈のふもとで作られる、羊乳を使った風味豊かなチーズです。イディアサバルと比べると、ロンカルはより濃厚でミルク感がしっかり感じられるのが特徴です。地元ナバラ産のワインと合わせれば、チーズの旨味がさらに引き立ちます。
👉バスクの代表的チーズ、イディアサバルとは?
👉【ピレネーの秘宝ロンカル】スペイン最古のDOPチーズの魅力
スペイン・バスク地方の料理は、土地の特産品を生かしたシンプルな味わいです。一皿に土地の記憶と歴史が詰まっています。
フランス・バスク地方の代表的な郷土料理
フランスのバスク料理は、名物のエスペレット唐辛子を効かせた味わいや、バターやハーブなどフランス料理のニュアンスを楽しむことができます。
フランス・バスク地方の代表的な前菜(Entrées)とメイン(Plats principaux)
■ジャンボン・ド・バイヨンヌ(Jambon de Bayonne)

フランスのバスク地方を代表する生ハム。ピレネー山脈の麓で熟成され、塩気がやや穏やかで、口当たりがまろやかです。スペインでは生ハムはドライな食感が好まれますが、フランスではしっとりした食感が人気です。
■アショア(Axoa)

仔牛のミンチと玉ねぎ、ピーマンの炒め煮。エスプレット唐辛子で軽くスパイスを効かせています。素朴で滋味深い味わいが魅力です。
■ピペラード(Piperade)

赤ピーマン、トマト、玉ねぎをオリーブオイルでじっくり煮込んだ温菜です。卵を加えることもあります。ふんわりとした食感と野菜の自然な甘みが広がります。
■プーレ・バスケーズ(Poulet basquaise)

唐辛子を効かせたトマトソースで鶏肉を煮込んだ料理。柔らかく煮込まれた鶏に、唐辛子のほのかな辛みとトマトの酸味が絡みます。白ワインにもよく合います。
フランス・バスク地方の代表的なデザート(Desserts)
■ガトー・バスク(Gâteau basque)

クッキー生地にクリームやジャムを包んだバスク地方の伝統菓子。フランスのガトー・バスクはブラックチェリーのジャムやアーモンドクリーム入りが主流です。ガトー・バスクはスペインではパステル・バスコと呼ばれ、カスタードクリームが入っています。サクッとした食感と優しい甘さのお菓子です。
フランス・バスク地方の代表的なチーズ
■オッソー・イラティ(Ossau-Iraty)

ピレネー山脈で作られる羊乳チーズです。まろやかな味わいで、ブラックチェリーのジャムや蜂蜜を添えて食べられることが多いです。
スペインとフランス、どちらのバスク料理もシンプルでホッとする味わいが特徴です。スペインのバスク料理は素材を生かした豪快な料理が多いです。フランスのバスク料理はエスペレット唐辛子やハーブを使った味付けが楽しめます。
【バスク料理と楽しむ】バスクの代表的なワイン・チャコリとリンゴ酒・シードラ
料理と同じく飲み物にもバスクらしい個性と土地の恵みがつまっています。
バスク地方は、海風と山の気候が交わる特有の環境で、ワインやリンゴのお酒シードラ(Sidra)の醸造が盛んです。バスク地方で作られる料理には地元のお酒がよく合います。
■チャコリ(Txakoli)

微発泡の白ワインで、魚介類とよく合う爽やかな味わいです。酸味をまろやかにし香りを立てるために、高い位置から注ぐ独特のサーブ方法も見ものです。
■シードラ(Sidra)

リンゴから造られるシードラ(バスク語でサガルド)は、キリッとした酸味が特徴です。脂の多い肉料理から前菜、魚料理、チーズまで何にでも合います。伝統的なシードラの醸造所シードレリア(サガルドテギ)では、大樽から勢いよく注がれる出来立てのシードラをグラスに注ぐ体験も楽しめます。
ワインもシードラもバスクの食文化を知るのに最適です。詳しい種類や楽しみ方は、別記事で紹介していますので、併せてご覧ください。
👉チャコリ(Txakoli)完全ガイド
👉バスクのシードラ完全ガイド|Txotx体験・味・選び方まで徹底解説
まとめ:伝統と革新を味わうバスク郷土料理の旅へ

バスク地方が美食で知られるのには理由があります。
- 新鮮な食材:山と海に囲まれ、品質の高い食材を使用
- 伝統と革新の融合:伝統料理に加え、革新的な「新バスク料理」も世界的に評価
- 美食クラブやバル巡り:食を通じた社交文化
スペインとフランスの影響を受けながらも、バスク料理はバスクの土地と文化に深く根ざしています。自然とともに生きるバスク地方の暮らし方や強い郷土愛、コミュニティ意識に支えられたバスクの食文化は魅力の宝庫です。
「本物の体験ができる場所」として人気のバスク地方で、ぜひ本場のバスク料理とバスク文化の神髄を味わってみてください。


