バスクの春、山からの贈り物:ペレチコ(Perretxiko)とは?

春のバスクを訪れると、市場やバルで目を引く小さな白いキノコがあります。それが「ペレチコ(Perretxiko)」。スペイン語では「セタ・デ・サン・ホルヘ(Seta de San Jorge)」、地域によってはバスク語でキノコ類全般を意味する「セタ(Zeta)」と呼ばれることもあります。春のほんの短い期間だけ味わえる、まさに“山からの贈り物”です。

この希少なキノコは、4月から5月にかけてひっそりと森に現れ、バスクの食卓に春の訪れを告げます。

ペレチコは“遺産”? 山の中の小さな宝探し

ペレチコは、食べる以上に「見つける」ことに魅力があります。冷涼な山や森の中に自生し、しかも毎年同じ場所に生えるため、一度見つけた場所は“秘密の場所”として受け継がれます。

昔は、家族の中でその場所を口伝で伝えることもあり、まるで遺産のように扱われていたとも言われています。現在でも、収穫場所を他人に明かすことはありません。

この時期は、誰がどれだけ春きのこを取ったかが、日々の話題にのぼります。ペレチコは山に住むバスクの人々にとって、まさに宝探しのようなもの。

希少なキノコなので、市場に出回る数は限られ、価格も高騰。
れでも春のバルやレストランでは、ペレチコを目当てに多くの人が足を運び、旬の一皿を楽しみにしています。

素材を味わう、バスク流ペレチコ料理

ペレチコの魅力は、力強く香ばしい香りと、しっかりした旨味。バスクでは余計な手を加えず、素材の良さを活かす料理が主流です。

定番は「ペレチコの卵炒め」。ふんわりとした卵に包まれたキノコの風味が、口の中で広がります。バスクの人たちは、胃の調子が悪いときは「軽い食事」としてたっぷりのオイルで焼いた目玉焼きと生ハムを食べる“鉄の胃”の持ち主ですが、そんな彼らでも「ペレチコは重い」と評するほど、食べごたえのあるキノコです。

バスクの春きのこペレチコのオムレツとパン
山で採れたペレチコと自家製卵を炒めたもの。イディアサバルチーズ祭りで買ったパンと食べるシンプルな夕食。

シンプルなソテーにしても絶品。白ワイン、特にチャコリのフレッシュな酸味とは相性抜群。シードルと合わせても、春らしい軽やかなペアリングを楽しめます。

森の中の静かなる戦い:キノコ狩り体験記

春、ペレチコの季節になると、森は少し緊張感を帯びた空気に包まれます。誰かが「ペレチコが出たらしい」と言えば、地元の人たちはビニール袋と、春きのこが潜む茂みをかき分けるための杖を手に、森へと足を運びます。

わたしたちもある日、山を散歩しながら草むらをかき分けていると、隠れたペレチコを発見!

草むらに隠れるバスクの春キノコペレチコ
茂みや草の間に隠れているので、探すには杖が必須。

思わず子どもたちが声を上げそうになるのを「シッ」と制したその瞬間、遠くの木立の間から、杖を持ちキノコ籠をさげたベテランらしき人たちがじっとこちらを見ていました。
たかがキノコ、されどキノコ。これは、バスクの人々にとって静かな真剣勝負なのです。

採ったバスクの春きのこペレチコが草の上に並べられている
この日採れたペレチコ。とても華やかな香りが広がる。

春限定の味わいを求めて:ペレチコを楽しむバスク旅

ペレチコの旬は4月から5月。バスクの丘が緑に染まり、街には春の賑わいが満ちています。ビトリアやサン・セバスティアン、ビルバオなどのバルを巡り、春限定の料理とワインを楽しむのは、この時期だけの贅沢です。

市場では、新鮮なペレチコが運良く手に入ることも。

春のペレチコは非常に人気が高く、数量限定のため、もしレストランで味わいたいなら、事前にメニューの有無を確認するのがおすすめです。

そのほかのバスクの春の味覚

まとめ:森と食卓がつながる、バスクの春

ペレチコは、単なるキノコではありません。バスクの春の到来をつげる、大切な山の文化のひとつです。
一口食べれば、土の香りや森の静けさ、そして春を待ちわびる人々の心が、ふわりと口の中に広がるはずです。

この春、バスクの森と食卓をつなぐこの小さな白いキノコに、ぜひ会いに来てみませんか?